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音楽専科83年2月号

「音楽活動に疲れた時こそチームワークが大切なのさ」
ジョン・ディーコン クイーン"10年史"を語る

(インタビュアー:岡田恵理子)

クイーン来日取材のパート2はジョン・ディーコンの登場。グループ1のジェントルマンだけに、クイーンを見る目も穏やかそのもの。バンドでのみずからの役割というものを、彼ほどわきまえている人も珍しいだろう。

――ジョン、まずこれまでの10年間を振り返って、ひとことコメントが欲しいんだけど。

ジョン:うーん、どっと疲れたナー、という感じ。ほとんど10年間は、クイーンそのものだったという感じ。 ほかのメンバーに初めて会った時はまだ19歳だった。その前はロンドンの大学で、エレクトロニクスを勉強してた。それから10年間だから、クイーンは僕の青春そのものといえるだろうネ。(☆数年後には「僕の人生」と言っていた。今現在はどうか知らない。)

――イギリスやアメリカで人気が出る前に日本で火がついた。日本のファンは、それだけに愛着がある。

ジョン:そう、あれはセカンド・アルバムが日本でヒットしたんだ。白と黒のアルバム・コンセプトで、あそこで僕達のイメージが出来上がった。クイーン・ルックとでも呼ぶものが。日本のファンは、それが気に入ったみたいだね。昔から変わらず応援してくれてる日本のファンには本当に感謝してるんだ。

――例えばビートルズの『サージェント・ペパーズ〜』みたいなコンセプト・アルバムがまだ出来ていないみたいだけど、これから作る予定なんかは?

ジョン:まだ作ったことない。これから作るかもしれないが、まだよく分からない。

――あなた達のレコードの作り方には何かポリシーがあるんですか?

ジョン:これといって…ない。(☆正直でよろしい。)そうだネ、いつも前を上回る作品を作ろうとしてることかな。スタジオに入ってみんなでミーティングをしてるうちにアイディアが出てくるんだ。その時々の気分で作るから…。先のことは読めない。

――アルバム『ゲーム』でやっとアメリカでも認められた。その時のことを覚えている?

ジョン:長い間アメリカをツアーしていたから、やっと認められたということで嬉しさもひとしおだった。『ゲーム』がナンバー1になったことで、僕達も自分の音楽に自信が持てるようになった。(☆「僕達」ではなく「僕」ではないだろうか。)これで僕達はどこに行っても通用すると思えるようになったんだ。そんな自信がなければ、アメリカでトップ・ビルでやることなんか出来っこない。

――『オペラ座の夜』からジョンの書いた「マイ・ベスト・フレンド」がシングル・ヒットして、そのあと『ゲーム』で「アナザー・ワン・バイツ・ザ・ダスト」がまたヒットした。あなたの曲はアメリカでよくヒットしますが、何かコツでも?

ジョン:そんなに曲作りは得意じゃないし、数も多くないんだよ。LPはせいぜい1曲か2曲。何だろうね? 僕もよくわからない。(☆謙遜ではなくて実際分かってなかったように思える。)

――ソロ・アルバムとか作ってみたら、もっと評価されるかもしれないよ。

ジョン:あんまり考えたことない。僕一人ではまず無理だろう。僕は歌がからっきし駄目だからさ(笑)。クイーンのヴォーカルは全部ブライアン、フレディ、ロジャーがやってるし、僕はレコードではバック・ヴォーカルも入れたことないんだ。もしソロ・アルバムを作るんなら、シンガーは最低必要だろうな。それじゃないと、まず作る自信ないよ(笑)。

――ステージでは歌ってるでしょう。

ジョン:歌といえるほどのものでもない。バック・ヴォーカルをほんの少しネ。(☆ということは少なくとも目の前のマイクの音量はゼロではないらしい。)

――フレディからヴォーカルの手ほどきとか受けてみればどうでしょう(笑)

ジョン:フレディの歌を聞くとなおさら駄目だ。あのレベルまで僕はとても追いつく自信なしだ。(☆何もあのレベルまで追いついてくれとは言っていない。)

――インストゥルメンタル・アルバムとか。

ジョン:そういう手もあるけど僕はシンガーを入れたい。それならフレディに歌ってもらう方が簡単だし、曲作りの面でも僕は寡作家だから、一年に数曲しか作れない。やはりクイーンとしてやる方がいいよ(笑)。
    ☆彼は「ソロ・アルバム=自分のベースプレイを前面に押し出す手段」とは考えてはいないようだ。ヴォーカルとの絡みが利いた曲がよほど好みなのだろうか。
★グループ活動に疲れた時には誰かがサポートしてくれるんだ

――クイーンの音楽というのは4人のパーソナリティをどうやってまとめ上げて完成させるのですか?

ジョン:4人それぞれ違ったパーソナリティの持ち主ばかりだからね。僕がクイーンに入る前には、他のベーシストがいた。何か4人のまとまりがいま一つ上手くなかったらしい。僕はわりと物静かなタイプで、あんまり出しゃばらない方だ。他のメンバーたちのスペースを侵略するのは好きじゃない。4人それぞれのパーソナリティが上手くかみあってる。それが音楽にも反映されてるんだろうな。そんなに難しく考えなくてもいいよ。1から10まですべて難しい計算で作り上げるわけじゃないから。

――そういえば、10年間で一度もメンバーチェンジがなかったというのも大変なことですよ。グループの危機とか、なかったんですか?

ジョン:どうだろう。1度や2度はあったと思うよ。バンドのメンバーは、ツアーに疲れたとか、レコーディングに疲れたとかいつもボヤくものだ。僕だってあるさ。ただ不思議なことに4人一緒にそれを言い出したことはない。いっせいにそれを言ったら、もう解散は時間の問題になってしまう。誰かが疲れている時には、他の誰かが前向きにグループを引っ張ればよい。クイーンだって同じさ。そのくり返しで10年きてしまったんだ。それはローリング・ストーンズだって同じだと思うよ。 この一年間は特に忙しかった。ツアーの連続だったんだ。それでも4人そろってのコミュニケーションはある。それが必要なんだ。でも、このツアーが終わったら、6ヵ月間はオフ・タイムとして、まったく仕事からは離れようと思ってる。それが終わったら、またフレッシュな気分で4人一緒に集まり、新しいことをやればよい。

――「アンダー・プレッシャー」を別にして、他のミュージシャンと仕事をしたことはあるの?

ジョン:ないんだ。

――ボウイともう一度やる予定とかは?

ジョン:今はプランがない。他のミュージシャンと一緒にレコードを作ることは、ハタで考えるよりも案外大変なことなんだ。まずスケジュールの調整がネックさ。それが駄目なら、たまたまスタジオで一緒になったミュージシャンとやる手もある。これも、僕達の気に入ったミュージシャンとスタジオ内で遭遇するのは、よほどのラッキー・チャンスに巡り会わないとネ。ミュージシャンの質も問題だし、音楽的に合わない連中もいる。やはり尊敬できる人の方がやりやすい、ボウイみたいにさ。

――今、気に入ってる人は誰?

ジョン:日本のラジオはいろんな音楽を流すみたいだね。FM雑誌を買い込んで、何を聞こうかとチェックしてるけど、なかなか時間もないんだ。

――さっきの質問に戻りますが、他に共演したいミュージシャンは?

ジョン:スティービー・ワンダー。でも絶対に不可能だろう。音楽的にもあまりに違いすぎるし…。(☆それこそ、ソロ・アルバムに参加してもらうってのはどうだジョン! 「参加する」方だと思うが。)

――例えば若手のバンドで、このバンドならという人は?

ジョン:そうね、ABCの「ルック・オブ・ラブ」はよく聞いてるし、僕自身は興味を持ってる。ヘヴィ・メタル・バンドとやるのも気分転換で楽しいかもしれない。僕達としては、もっといろんな人と交流したいという希望はあっても、ツアーがあるし、思うように実現されてないんだ。

――クイーンの最近のアルバムを聞いてると、次は何が出て来るのかわからなくなる時がある。聞く度に私達をビックリさせてくれるわけだけど、それは意識的にやってることなのかしら…。

ジョン:別に。スタジオに入る前はいつも全く白紙なんだ。クイーンは次はこうやろうとかのプランはない。他のバンドだとレコーディングが終わった段階でもう次のアルバムの構想とかをアレコレと言ってるインタビュー記事とかあるけど、僕らはまるでそういうのはなし。出来上がって全部を通して聞いてみる。そこで初めて僕達も今度はこういうことをやったのかと驚くわけね(笑)。

――何だか信じられない。

ジョン:アルバムというのは4人のパーソナリティで作る。その時、4人がどんな音楽に興味を持ってるかでずいぶん出来上がりは変わってくるんだ。みんなこの1〜2年はエレクトリック・ポップスやテクノもずいぶん聞いてるよ。シンセサイザーも最初の頃は敬遠してたんだけど、『ゲーム』で少し使って、今はいろんなものに使ってる。スタジオの中では4人ともシンセを操作できるんだ。

――コンサートにはキーボード奏者を同行させてましたが。

ジョン:そう、フレッド・マンデルというカナダのキーボード奏者だ。前はアリス・クーパーと一緒にやってたよ。彼はギターも弾けるんだ。さすがにステージでは僕たちでキーボードを全部こなすわけにはいかないからさ。
★有能なグループなら、みんなをリードする人材がいるものさ

    ☆↑これは意味合いがちょっと違うんである。

――トップスターとしては、今後どんな目標を持ってるんですか?

ジョン:何をやろうとか? さあ、時々、4人で話し合うこともあるんだけど、みんなクイーンに対して別々の期待もあるんだ。ブライアンにはブライアンである。だから、グループとしての統一的な意見は難しいな。

――そのへんのことはオフの期間にじっくり考えようとか…

ジョン:この日本ツアーが終わったら6ヵ月間は何もスケジュールを入れないでロンドンに家族と共に帰って、のんびりするんだ。時々はメンバーとも連絡を取り合うだろうが。

――あなたが今、一番気に入ってる曲は何?

ジョン:『ゲーム』の中の「ドラゴン・アタック」かな。(☆この答は純粋に受け取るべきなのだろうか、それとも何か思惑があってのことなのだろうか…)

――「ベスト・フレンド」とか自分の曲がヒット・チャートの1位になるというのは、また格別の気分でしょう?

ジョン:一番エキサイトするのは、曲をはじめてラジオで聞いた時だよ。一位というのは、その結果でしかないから。

――そんなにラジオは熱心に聞くんですか?

ジョン:やはりどんなイギリスのバンドがアメリカで成功してるのかは、いつも気になるものさ。

――そういう若手に対して、何かアドバイスとかありますか?

ジョン:そうだね。短期間で成功することは難しくても、ねばり強く続けることだ。そのためには、やはり自信を持ち続けなきゃいけないな。 有能なグループなら、その中に一人や二人は必ずグループをリードしていきたいという個性の強い連中がいるものだ。そうした連中を中心に、いかに上手くまとまるかが勝負だ。
    ☆見出しはこの部分を引用しているみたいだが、その他のインタビューからすると、彼は何も「有能なグループには皆をリードする人材がいるから"良い"」と言っているのではなく、その後の部分を力説していると思われる。リードしたがる人物をいかに押え込んで平等に持ち込むかが成功の鍵だと。

――それはクイーンの場合も同様だった?

ジョン:あくまで一般論としてもそうだろう。昔からバンドというものは、そういうものさ。

――クイーンはいろんな国をツアーしてきたわけだが、これからまだ巡りたい国はある?

ジョン:南アフリカとか行ってみたい。あそこは人種差別が強い。ラスベガスのような街がいっぱいある。そういうところは避けて、南アフリカでやってみたいな。

――共産圏とかは。

ジョン:あまりにも国の事情が違いすぎちゃって、難しいだろうな。ソ連も中国も、若い人たちにあんまり自由主義国のことを知らせたくないんじゃないのかなあ。中国は音楽家でもクラシックとか現代音楽畑の人は入れるみたいだ。まあ、僕たちがあそこでコンサートをやれるようになるためには、あと10年はかかるだろうね。

――クイーン20周年記念ツアーで行くとか…。

ジョン:そりゃいいや。いろんな国を見られるというのは楽しい。

――あなたはアジアの文化とかに興味は持っていますか?

ジョン:そんなに特別の感情はない。(☆これも正直でよろしい。)ブライアンが『オペラ座の夜』で、琴を弾いてるよね。あの時は日本の音楽のスケールは西洋の音楽と違って独特のものがあるから、それをマスターするのにずいぶん苦労したんだよ。僕はそれほど聞かない。やはりブライアンが一番興味を持っているかな。

――日本にはニュー・ミュージックなんてものもある。

ジョン:いいものがあれば何でも聞いてみたいとは思うけど。

――最後に日本のファンにメッセージを。

ジョン:アメリカでNO.1になったからって、4人のメンバーの名前まではそんなに知られてないんだ。僕の名前を言ったって、誰もわからないだろう。(☆当たってるだけにコメントしづらい) 日本のファンは、個々のメンバーのキャラクターにまで興味を持ってくれる。とても熱心なんだな。(☆そりゃどうも)それだけに僕らも日本では頑張りがいがあるというものさ。今後ともバックアップしてくれるように頼みたいね。


受け応えが堅苦しいのは訳のせいかもしれないが、かなりそっけない部分が多い。「なぜソロアルバムを作らないのか」を通常より突っ込んで質問しているのが目玉だろう。


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