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クイーン 伝説のチャンピオン
PART 1. クイーンの成功 --"化学的結合をしたグループ"

(立川直樹・著)

4月24日・東京。(☆1979年) クイーンは大阪でのコンサートの後、金沢の実践倫理記念館でのコンサートを終えて、2日前に東京に戻ってきていた。そして前日に再び武道館で満員の観客を熱狂させたクイーンは、明くる25日には数えて5日目になる武道館でのコンサートを終えてまたロードに出るといったスケジュールだ。
どこまでも果てしなく家また家といった感じの東京が一望できる京王プラザホテルの41階の部屋で、僕はジョン・ディーコンがやってくるのを待っていた。

クイーン一番の骨太の現実主義者といわれるジョン。

インタビューやマスコミ関係の会見などには興味を示さず、一番近づきがたい人柄と控えめに伝えられている彼は、ポール・プレンターの言によれば、「さっきシャツを買いに行くといって出てったからもうくるはず。でも歩いていったから、道に迷っちゃったのかな」ということで、約束の3時には姿を現さなかったが、僕は「前にきた時行ったことがあるから覚えてるよ」とスタッフに言って出かけたものの、店の場所がわからなくて、新宿の駅前をフラフラ歩いているジョンの格好を思い浮かべたら、ひどく愉快な気持ちになって思わず吹き出してしまったほどだった。(☆立川さんにとって「一番近づきがたい人物」像ががらがらと崩れた瞬間だったに違いない)

そして、ジョンはかなり遅れるだろうという予想に反して、ほんのしばらくしてやってきた。カンディンスキーの描く絵のようなパターンのシャツ(☆ぐるぐる模様?)にビールの小瓶をぶら下げて入って来た彼は、1人で歩いていたら、恐らく誰も世界でもトップ・クラスのロック・バンドのメンバーだと思うまい。(☆4人でいてもマネージャーと間違えられそうである。)隣りの部屋でスーツに着替えてきたら、いる場所は360個のパーライトのきらめくステージよりも銀行かどこかの方が似合いそうだし、およそスキャンダルなどとは縁のない清潔なイメージだ。

「ごめんなさい。意外と距離があったもんで。じゃ、会えて乾杯!

昼下がりの散歩がよほど気持ちがよかったのだろう。ジョンは部屋に入って来た時からずっと笑顔をたやさずにいる。(☆そういう顔なのだ)

ちょっと酔ってるな。(☆かなり酔っている。) 僕はそういえば、ロジャーと会った時も、こんな感じだったと思いながら、カセット・レコーダーのスイッチを押した。

――クイーンのアルバムを通して聴いてみると、一番感心するのは "進歩"ということをあなたたちが確実に感じさせてくれることなんです。とにかく、アルバムごとに新しいアイデアが出て来て、冒険をしているけど、そうした大胆なステップ・アップの課程で、ファンとアーティストの関係、接点というようなことを意識することはありますか?

ジョン:ある考えを入れてアルバムを作るというより、誰がどの曲を書いたかということで、アルバムが特色づけられ、変化して来ている。一番最初のアルバムが、もっともヘビーでよりロック的であり、その後スタイルが変わってきているけど、それはアルバムを変えようと意図したから変わってきたのではなく、曲自体が変化してきたからだよ。

――その中でもとりわけ『オペラ座の夜』での変化は大きい感じがする。その頃から映画っぽいアルバム作りがされているような感じだし…。映画との関わりってあるのかなあ?

ジョン:わからないなあ、そう言えないこともないけど。(☆なんだか心細いぞジョン) 『世界に捧ぐ』が今までで一番シンプルなアプローチをしたものであり、段々シンプルになってきている。全体的には、段々に最初のアルバムに戻ってきている。

――『メロディ・メイカー』で見たんだけど、『オペラ座の夜』が出た時、マルクス・ブラザースから祝電をもらったっていうのは本当? どんな内容だったか覚えている?

ジョン:本当だよ。内容は長いので覚えてないけど、ジョン・リードがマネージしていた時のことだから、彼のところにコピーがあるかも知れない。まあ、確か、成功を祈る、彼らと同様の成功を、というようなことだったと思う。

――ジョン自身はマルクス・ブラザースの映画を見たことがある?

ジョン:ある。『オペラ座の夜』も見た。イギリスのテレビではよくやるし、人気のある映画なんで他にも何本か見たよ。

――マルクス・ブラザースは映画の世界で革命的なことをやった人達だった。クイーンも同じようなことを、70年代のロックのみならず、コンテンポラリー・ミュージックの世界でやった。それにはクイーンが初めからタイトなグループだったことが見逃せないことだと思うんだけど、まるで兄弟のような親密な状態を続けて保ってられる理由なんて説明できるかな?

ジョン:そう、マルクス・ブラザースはコメディでやった。僕達とは違った分野だが、尊敬すべきことだ。そして本当のことはわからないけど、タイトな理由は、僕達が全員異なったパーソナリティを持っていて、その中でいろいろな興味を出し合って曲を作るからだろう。大体はブライアンとフレディが書くけれど、ロジャーや僕も書くし、それぞれが曲を作れることも理由のひとつだ。クイーンは化学的結合をしたグループなんだよ。勿論、今までこのように長く一緒にやってこられたのにはいろいろと苦労もあったけど…。

――化学的結合をしたグループというのはすごくいい表現だね。水素と酸素が結合して水になったら、特別な装置で特別な力を加えない限り、離す事ができないもの。クイーンはまさに4つの分子の完全な結合体なんだな。
    ☆切り離せないことよりも、結合したことで単独の元素にはなかった性質(パワー)が表れるという意味で言い当て妙だと思う。

ジョン:うん、4人はそれぞれのやり方でステージに貢献している。とても重要なことなんだが、4人の分担が平均していて、リーダーはいないんだ。議論を重ねて3人の意見が一致したら行動するけど、2対2の時はやらないって具合にね。

――その決定の仕方は、レコーディングその他、全てのプロジェクトの時に用いられるのかな?

ジョン:レコーディングの時はいつもそういうわけじゃなく、曲を書いた人間が一番発言権を持っているけど、他の場合もその決定方法でやる。

――4人のパートナーシップがうまくいっているのは、音楽だけじゃなく、他の趣味もかなり一致しているからでしょう。例を『世界に捧ぐ』でジャケットにフランク・ケリーズのイラストを採用したことにとって説明して欲しいんだけど…。

ジョン:他のことでは、いつも一致しているわけでもないが、その時はロジャーのアイデアが決まりだった。彼はあのジャケットのオリジナルのイラストが気に入って話を出し、みんながそれに賛成した。それからアメリカに住んでいたケリーズにコンタクトをとってもう一度描きなおしてもらい、それを使ったんだ。アート・ワークに関しては、僕よりも他の3人が受け持ってる感じだね。特にロジャーは、この間のアルバムもやったんだけど、興味を持っているようだ。

――じゃ、新しいプロジェクトに取り組む時、ジョンが一番気になってやりたいと思うパートは?

ジョン:アート・ワークに興味がないわけじゃないが、3人でやるのが普通になってしまったんだ。(☆そりゃ彼にアート・ワークを受け持たせるのは他の3人だって躊躇するだろう) 僕はビジネスの方面に精通しているので、そっちの方を受け持っている。音楽の他にさらに余分の仕事が加わるので大変だけど、経済に明るい人間が1人必要なことも確かなんだ。大変な仕事が回ってきてしまったものだけどね。
    ☆そもそも彼が新居の為の前借りを断られた事がすべての発端なのだから、「回ってきた」という言葉はかなり控え目だ。

――それなら、ビジネスと音楽をうまく結びつける方法はどんなものか話してもらえるかな? クイーンはPAやライティング・システム、楽器、それに本体と、まるでひとつの産業のようになっていて、それでもとてもうまくやっているもの。

ジョン:確かに10年前に比べると、前はひとつやふたつのキャビネットで、ひどい音でやっていたけど、今回のツアーではライトも300か400ぐらいあって、規模も大きく、よりエスタブリッシュされてきた。でも、僕はただどのようにお金を調達するかとか、どれだけ費用がかかったかに関心を向けているだけで、別に音楽とビジネスをどう結びつけるかについて考えたことはないな。
    ☆デジタル思考の男なので、彼の頭では無意識に切り替えが行われているらしい。

――他のグループは大きくなっていくと、それを維持したり支えることができなくなって、解散に追い込まれたりするけど、クイーンは大きくなるのに並行して成功していってるように思える。それも音楽とビジネスの関係抜きでは考えられないと思うんだけど…。

ジョン:大きくなるほどよくなっているということに自分達では確信はないが、例えば照明をとってみると、毎回ツアーごとに形を変えるので、業者に作らせてレンタルにしている。その方が自分達で持つより経済的だからだ。だから、はたで見るほど維持するのは大変じゃないんだ。
    ☆立川さんの質問の意図と外れた答ではあるが、ジョンならではの、経費を浮かすためのケチ臭い…もとい、きめの細かい工夫が伺える。

――アルバムごとに階段を上るように成功してくると、どこに目的を置いていいかとまどうようなことはない? 以前、ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズが『ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーン』(狂気)がベストセラーになった時、余りに売れすぎてしまってグループが結成当初の目的がボケてきたような気がするとボヤいていたのがすごく印象に残っているんですよ。

ジョン:アルバムを出すごとに、前よりよくするのはとても難しいことだと、自分も他のメンバーも意識している。アルバムを作るというのは困難な仕事であり、よくなって欲しいと願って、いろいろ骨を折るわけだが、出てからでなければ、その売れ行きがよいかどうか、また評判がどうかはわからない。前回のアルバムより今回の方がよくなって欲しいという強い願望を常に持つのが一番大切なことだよ。
    ☆ふむふむなるほど…と感心しかけたが、よく考えると至極当然の事ばかりである。

ジョンの冷静で鋭い観察眼。78年の初めにはジョン・リード・エンタープライズとも別れ、自分達で自分達のマネージメントもするようになったクイーンにとって、ジョンの果たしている役割というのは、ステージやレコードを通して我々が思っていた以上に大きく、また重要であった。(☆しかしそう思えるのはこの時期限定、という感じもするのだが…後のアフロが裏のリーダーと言われてもピンとこない)

「僕はビジネスには全く首をつっこんでいない。お金には無頓着だからね。得ただけのお金を使う、それだけさ。僕は今までずっと魅惑的なスターのような生活をしてきたと思うよ。だから、今やってることは決して新しい生活じゃないんだ。いつも昔から最後の1ダイムまで使い果たしてしまうのが僕のくせでね。今は富を得ているけど、無名の頃からいつも僕がスターであると意識していた。そして今、世界中の全てが僕に同意してくれている気分だよ」などとフレディが言えるのも、ジョンのような人間がいるからこそ、またクイーンという強固な組織があるからなのである。

ジョンの言葉を借りれば、"化学的結合"。そしてフレディによってデザインされた、2頭のライオンは2人の獅子座、ロジャーとジョン、蟹は蟹座生まれのブライアンで、2人の妖精はフレディの乙女座を表したというクイーンの紋章も、岩より固いといわれる中世の騎士団の団結を象徴しているようにも思えるが、僕は降りていくエレベータの中で、76年春の2度目の来日公演の際に行われたインタビューで、メンバーの誰が言ったものだったか定かでないが、「4人とも問題が出て来た時にうまく整理できるインテリジェンスを持っている」という言葉を思い出してもいた。また、ジョンの最後の言葉に関連しているが、「クイーンには終着駅がない」という言葉もまた。


ビールの小瓶片手に笑顔満面で登場した割には比較的面白味のない堅いことばかり喋っているので、突っ込み難かった。(別に突っ込まなくてもいいのだが)それでも、「クイーンは化学的結合をしたバンドだ」は「ディーコンさん名台詞ベスト3」に入るカッコイイ言葉だと思う。


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