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金の斧と銀の斧

Written by Yuriさん

昔、きこりがおりました。
ハンサムでしたが貧しいが為に町に出られず鬱屈しておりました。
(くそっ、どうして俺はこんなに働いているのに貧しいんだ。
町に出ておねーちゃんと遊びの一つや二つしたいってのによぉ)

ある日きこりは、いつものように森へ出掛けて行きました。
方々の木々は切り尽くしてしまったなと、まだ誰も足を踏み入れたことのない 森の奥深くまで行ってみようと思いました。きこり仲間からは
「森の奥には不思議な泉があって、その中から化け物が出てきて喰われるらしい」
などと、釘をさされていたのですが生活には代えられないと
ぐんぐん森の奥へと進んで行きました。そして案の定、
たくさんの木々の中に、異様に輝く不思議な泉をみつけました。
(これが話に聞いた泉か…別に黙っていりゃどうってことはないだろう)
きこりは、早速木を切り倒し始めました。ところが、うっかり手が滑り
鉄の斧が不思議な泉にぼちゃん、と沈んでしまいました。
(ああー!)
きこりは、大事な商売道具をなくしてしまって悲痛な声を上げました。
その時です。不思議な泉から、化け物というよりはマッチョな男が
泉の中からいささか気だるそうに姿を現わしました。
「あたし女神。あんたの落としたのはこの金の斧と銀の斧と鉄の斧、どれ?」
「め?」
きこりは思わず、マッチョな女神の話を聞かずに高音で笑い出しました。
「しっ、失礼ねっ。誰もここにずーっとずーっと
来やしないからあたしだって年の一つや二つ取るわよ!
で、どっちなの?あんたの落とした斧は?」
「くっ…その鉄の斧…」
「ふん、面白くないわ。あんたは正直だから、この金の斧をあげる」
女神は、金の斧をきこりに手渡すとふいと姿を消しました。
きこりは金の斧のお陰で、思う存分女遊びが出来るようになったということです。

―不思議な泉の女神は、正直者には幸せを与えるそうです―

また別の場所に住んでいたきこりは、
お金持ちになったきこりの噂を耳にし、少しばかり欲が沸いてきました。
普段は滅多に使わない鉄の斧をひいひいぜいぜいと、担いで
途中で何度も斧を足元に落としそうになりながら、森の奥へと進んで行きました。
不思議な泉の側までやっとの思いで辿り着いた時には
日もとっぷり暮れていましたが、その泉だけは輝いています。
「よっこらしょっ」と泉に鉄の斧を放り投げました。
(これでギターの材料が手に入る…嬉しいな)
寝起きだったのか、マッチョな女神は大変に不機嫌そうでした。
「…もう、こんな時間にしょうがないわね。
あたし女神。あんたの落としたのはこの金の斧と銀の斧と鉄の斧、どれ?」
実物を見せられたきこりは大変に悩みました。
(うーん、ここは正直に鉄の斧と答えるべきか、しかし金銀の斧の魅力には 抗えない。しかしそうすることで女神の機嫌を損ねたら…だが…)
きこりが顎に手を当て、深く考え込んで動かなくなっているのを見て、
重い斧を三つ掲げた女神は疲れているのと、きこりの優柔不断ぶりに
いい加減しびれを切らし、鉄の斧と共に泉に沈んでいくのでした。
「…鉄の斧!」
きこりが答えを出した時には、既にマッチョな女神の姿はありませんでした。

―不思議な泉の女神は、優柔不断な者が嫌いだそうです―

またまた別の場所に住んでいたきこりは、
妻とたくさんの子を抱えながら、貧しい生活を支えていました。
彼は、すっかり裕福になったきこりに不思議な泉の話を聞いて、
森の奥へと喜び勇んで出掛けて行きました。
さて、不思議な泉に斧を落としてみるとマッチョな女神が三たび
姿を現わし、きこりを一目見るなり色目遣いをしました。
(あらあら、この間の男より好みだわ☆ふふふ…)
きこりはぞっとしましたが、これも生活の為と微笑みを浮かべるのでした。
「あたし女神。あんたが落とした斧はこの金の斧と銀の斧と鉄の斧、どれ?」
きこりは迷わず「鉄の斧」と答えました。
これで生活が楽になり、妻子も喜ぶだろうと内心ほっとしておりましたが、 女神の出した答えは、余りにも残酷なものでした。
「あんたは正直だけど、食べてやる☆」
女神が言うなり、ぐいと体を掴まれてしまったきこりは、
そのまま不思議な泉の中へ引きずり込まれてしまいました。
その後、このきこりがどうなったのかは誰も知りません。

―不思議な泉の女神は、面食いで有名だそうです―

おしまい。

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