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パンクに負けるな! 過激にスピーチ!?編

Written by まささん (Adapted by mami)

今日はクイーンズロック建国○△×年の記念日。
もちろん王族たちも、この日に記念式典を行う。
宮殿前広場には、たくさんの国民たちが旗やペナントを振りながら、
4人の登場を今か今かと待ちわびている。
そう、今回は珍しく、貴公子4人の個別スピーチがあるらしく、
国民注目のイベントとなっているのだ。

フレデリック王子の登場により、国民の歓喜の声は最高潮に達する。
すごい声援だ。老若男女一様に声を張り上げ、王子をもり立てる。
頭に王冠、そしてマントをかぶったフレデリックの勇姿は、まさしく
王の中の王として、国民の目に眩しく映る。

彼はスピーチを始めようとするが、歓喜のあまりなりやまない声援に、
まずは国民に静かにするようさとし、スピーチを始める。

「やあみんな…また会えて嬉しいぜ。(このくだけた物言いに、国民の
歓声が惜しみなく浴びせられる。王子、まんざらでもない顔で頷く)
今日は、この記念すべき日に大勢の国民が集まってくれて、ありがとう。
我々は、君たちの幸せな生活を保証する。ずっとクイーンズロックで
全国民が幸せに暮らせるようにね。それを信じて、君たちの生活を僕らに
ゆだねて欲しい。」

おお、なんと頼もしい、王者にふさわしい風格のスピーチであったことか!
スピーチ終了後、国民の声援はまたまた最高潮に達し、中には感情の
高ぶりで涙さえ流す者もある。さすがだ。

次はハロルド第二王子の登場だ。またまた歓喜の声。
特に今回は、文化施設の関係者、また年寄りの「黄土色の声援」が著しく
増えている。
「ハロルド様の端正な、お育ちの良さそうなご尊顔、ほんに素晴らしいのう。
こういうお方がおいでになる限り、我が国の文化芸術の発展は安泰じゃわい。」
「あの方は、年寄り子供にお優しいからのう。紳士的であらっしゃるし、
王子様方の中ではいちばんまともに見えるのう。」
バルコニー狭しと幅をとるハロルドのカーリーヘアに向かって皆が合掌を
始めた(念仏を唱える声もする)後しばらくして、彼のスピーチが始まった。

「今日はお集まりいただいて、ほんとうにありがとう。(『南無南無…』
国民、ひたすら拝む)みんなも知っている通り、今日は我が国の歴史に
おいて大変重要な日だ。そもそも、この国の歴史の始まりは、開闢以来…」
王侯貴族も大臣も一緒になって、静かにうんうんと聞いているが、
彼らは、ハロルドの話が際限なく続くことを忘れていた!
一度など彼の話だけで時間は押しに押し、知らぬ間に国民も含めて広場で
一泊していたこともあったのだ。
倒れる年寄り続出。読経の声はいつのまにか呻き声に変わっている。

ようやく終わったところで、息も絶え絶えで杖にすがりつく老人が一言。
「これさえのうなったら、ほんに素晴らしいお方なんじゃがなぁ・・・」

次はメドウズ第三王子の番だ。
「ったく、ハロルド兄ぃ、何考えてんだ?てめえひとりの時間じゃねえんだよ…」
「どうせメドウズだって、中身のないスピーチしかできないくせに」
「何だと?兄貴だからって容赦しねえぜ!」
髪を逆立て始めたハロルドと片肌脱ぎ出したメドウズを、フレデリックが止める。
「しっっ! 兄弟喧嘩は後だ。(そう言って後ろにいるリチャードを
にっこり見やるフレデリック。表情が必要以上に艶っぽい)
メドウズ、今度は君がみんなを元気づける番だ。思うようにスピーチを
やっておいでよ。」
「おう、がってんだ。」
言い争いも忘れて、元気よくステージに上がるメドウズ。

ここで、彼には「待ってました」と言わんばかりの女性たちの声援が、
割れんばかりに届く。
「メドウズ様〜〜〜〜、きゃあーーーー、こっち向いて!」
「メドウズ様ーーーー、すてきよーーーー!大好きーーーー!」
年寄りや男たちは、そんな女性国民の甲高い声に、ちょっと辟易気味の顔。

「やあ、みんな。俺がメドウズだ。今日はこのあとにも、いろいろな記念行事や
イベントがあるから、ぜひ楽しんで帰って欲しい。俺の趣味で入っている近衛隊
でも、今日は音楽部隊が演奏会を行うことになっているので、是非聞いてってくれ。」
言い終わるか終わらぬうちに、またまた女性たちの黄色い声援。彼女たちは、
メドウズを自分たちの目で見ることができて、いたく感動した様子。

「俺のスピーチ、うまくいったな…女の声援がたくさんあったし…。
俺って、やっぱ王族の人気維持に一役も二役もかってるよな…へへ」
ひとり悦に入りながらステージを後にするメドウズ。

さて、しばらくの沈黙の後、ステージにおもむろに上がる男がひとり。
実はそれが、リチャード第四王子なのだが、ほとんどその姿を見たことのない
国民たちは、一瞬ぎくっとし、ついでざわざわし始める。
「…あの人…誰?」
「あれが確か、末弟の王子様だよ。名前は…ええと…なんだっけ…」
「えっっ、あの人、王子様たちのお世話係じゃないの?なんか普通っぽい…」
中には「えっ、クイーンズロックの王子様方って、三人兄弟じゃなかったっけ?
フレデリック様とハロルド様と、メドウズ様だけかと思ってた。」などと抜かす
不届き者までいる始末。

国民たちの訝しげな視線を浴びつつ、壇上に現れたリチャードは、
少々どもり気味に聴衆に語りかけ始める。
「こなさん、みんにちわ。」
「……。」
自分ではギャグを言ったつもり(であろう)なのに、
リチャードの顔も存在も知らなかった国民に、彼らしいスピーチ、
言動というものがうまく伝わるはずもなく、
国民は、ただぽかーんとして、彼を見上げているだけ。
沈黙が場を制した、まさにそのとき!

「おら〜〜〜〜、こんな建国祭なんかやめちまえ!」
聴衆の後方右側から、荒々しい声を上げ始める一群。
聴衆は驚きと不安の面もちで、一斉に声のした方を見る。
どうやら、最近国の若者たちを中心に支持を集めている、と噂のある、
超過激左翼集団、「性の銃」のメンバーと、その仲間たちのようだ。

突然の彼らの登場に、群衆はまたまたざわつき始める。
が、その間も、リチャードはひるむことなく、スピーチを続けている。
思い思いにしゃべったり、逃げ出したり野次馬根性でその場へ動こうと
したりする群衆を前に、ひとりでもそもそとしゃべっている。

「おい、そこの王子たち、それに大臣たち!
おまえらの国のフェスティバルとやらを、俺たちが吹っ飛ばしてやるよ。
何がクイーンズロック万歳だ。見てろ、今ここに俺たちが宣戦布告してやる!
おまえらの国家は、吹けば飛ぶようなくだらないもんなんだよ!
ここに集まってるおまえら聴衆も、一緒に王子どもをぶっ潰そうぜ!」

「おい、フレデリック兄ぃ…大丈夫か? リチャードも国民も…。
せっかくのイベントが、えらいことになるんじゃねーのか?」
「本当だ…。『性の銃』は最近、えらく興隆してきたと聞いていたけど、
こんな形でお目にかかるとは思わなかった。リチャードは、いったい
どうしてまだスピーチを続けているんだ? 早く引っ込まないと」
心配でたまらない様子のハロルドとメドウズ。
「心配しなさんな。僕の…いや、僕らのリチャードが、何とかあの場を制する
はずだ。彼に任しとけって」
「何とかって…リチャードがどうあの場をしのぐのか、見当つくのか?」
ハロルドの問い掛けに、フレデリックは胸を張った。
「いやつかない。ただそんな気がしただけ」
どどっと崩れるハロルドとメドウズ。

群衆の声が段々大きくなり、阿鼻叫喚の場と化したその瞬間!!
侍従長、スパイクのかけ声を合図に、その場に潜んでいた大勢の衛兵たちが
「性の銃」一味に飛びかかり、あっという間に鎮圧する。
あまりにもあっけなく、彼らのもくろみは失敗に終わった。
と同時に、リチャードの淡々としたスピーチも、幕を閉じた。

その場の国民たちは、一斉に拍手と歓喜の声をあげる。
といっても、リチャードの演説を聞いてではない。左翼集団が無事に取り押さえ
られたことに対する、安堵と賞賛の念からである。
結局これで、リチャードは、国民に名の知られるチャンスをまたまた逃したので
あるが…。

実は、イベントの前に、「性の銃たちが王子のスピーチに乗り込んでくる」という
極秘情報を暗々裏に手に入れたリチャードは、ビーチ大臣やスパイク・エドニー
侍従長とこっそり相談して、いつもの3倍の警備体制を敷いていたのだった。
もちろん、国民にも、そしてほかの3王子にもそれとわからないように、
衛兵をいろいろな場所に分散して配置させ、お縄にする時を伺っていたのだった。

「やったな!偶然かなんだかわかんないけれど、とにかく無事にリチャードの
スピーチも終わって、よかったよかった」
「言ったろ? リチャードが何か、手はずを整えていたんだよ。
俺はよくは知らないけどね。あるいは、彼はとってもいい子だから、
神様が守ってくれた、そのどっちかだ」
わけのわからん理由づけをするフレデリック。

その後も、何も事件や事故なども起こらず、国民たちはきわめて安全に、国の
一大イベントを楽しんで、建国祭は成功のうちに終了したのであった。

そして、数日後。
国民たちが、国から新たに出たおふれを見て、何かつぶやいている。
「増税実施…? こんなの、聞いてないよ〜〜〜??
王子か大臣か、こんなこと言ってた人いたっけ?」
「俺も知らない…。いったいいつの間に、こんなことが決定されてたんだ?」
「これからばくちもできない、酒も女遊びもますます控えなきゃなんねえな…。
まったく、俺たちの生活をどう思ってらっしゃるのかね?王子様たちは」

一方、宮殿の中では。
「しかしリチャード様、うまくおやりになりましたな。あなた様は、
時にはお兄さま方をおだましになりながらも、国政の舵取りをなさるのですから。
いや、このたびはわたくしも、リチャード様のお手並みに脱帽でございます」
「…そんなんじゃないよ、ビーチ大臣。ただ僕は、みんなの知らないところで、
国の安寧秩序を守りたいだけさ。政治、経済活動も含めてね」
紅茶を口にしながら、照れたような笑いを浮かべるリチャード。
そのあどけない表情には、彼の「もうひとつの顔」など、
決して伺い知ることはできない。


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