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プレゼント

Written by 黒とかげさん

…それは、Queenが初来日し、大成功をした後の事だった。
イギリスに戻ったQueenメンバーは、毎日日本の話をし、プレゼントを1つ1つ空けていった。
そんな時、Freddieは、Johnが一人でホテルの部屋にいる時を狙って、遊びに行った。
その手には、何やら大きな包み紙でラッピングされた箱を持っている。
「じょーん」
ドアを開けて出迎えてくれたJohnに、Freddieは満面の笑顔でその箱を差し出した。
「これをどうぞ」
「これは?」
Johnが、不思議そうな顔をして尋ねる。
「僕からのプレゼントだよ」
Freddieは、そう答えた。
「プレゼント?」
Johnが聞き返す。
「僕の誕生日でもない、特別な日でもないのに?」
「そうさ。僕の気持ちだよ、John」
「…そう、ありがとう…」
そう御礼を言って、Johnは、プレゼントを受け取ると、玄関のドアを閉じようとした。
すると、
「ちょっと、待った!」
Freddieが、慌てて、それを止めた。
「お願いだから、今、箱を開けてくれないかな?」
そう、願う。
「箱?」
「そうそう」
「ここででかい?」
「うん」
「でも…」
「良いから、良いから」
「そうかい?じゃ…」
Johnは、玄関を閉めるのを止めると、逆に大きく開けた。
「部屋に入って」
そうFreddieを部屋に招き入れる。
「ありがとう」
Freddieは、遠慮無しにJohnの部屋の中へと入っていった。
「何か飲むかい?」
Johnは、Freddieの後をついていきながら、尋ねた。
「良かったら、ルームサービスで頼むけれど」
「いいや、何もいらない」
そうFreddieは、断った。
そして、二人は、リビングルームへとやって来た。
「どうぞ座って」
Johnが、ソファーを進めた。
…が、
「いいよ。すぐに出て行くから」
と、Freddieは、これも断った。
「そう?」
Johnが、目をパチクリさせながら、答えた。
「さあ、早くプレゼントを…」
Freddieは、急かした。
「分かった。じゃ、開けるよ…」
Johnは、独り掛けのソファーに座り、Freddieにプレゼントされた箱をガラスのテーブルの上に置いた。
そして、ラッピングを綺麗に外していく…。
中から出てきたのは…。
「何これ?」
Johnが、Freddieに尋ねた。
「洋服?」
中から出てきた物を、頭の上へ掲げて見つめる、John。
「洋服ではないかな…?まあ、服には変わらないけれど…」
Freddieが、そう言う。
「洋服ではない?」
Johnが、箱から出てきた物を、一度テーブルの上に置いた。
綺麗に、その物をテーブルに広げる。
「…もしかして…」
ぽりぽりとこめかみの辺りを掻きながら、
「日本の着物ってやつかい?」
と、Johnは、Freddieに尋ねた。
Johnは、日本で、着物を着て、写真に写った事がある。
すると、Freddieは、指を鳴らして、
「惜しい!」
と、言った。
「…着物で、惜しい…?」
そしてテーブルの上に広げたプレゼントを、マジマジと見つめる、John。
「じゃ、何だろう…?」
「ふふふふ」
Freddieは、そんなJohnに対して楽しそうに笑った。
「降参かい?」
ニコニコしながら、Johnに尋ねる。
するとJohnは、手のひらを上に上げて、
「ああ、分からない」
と、答えた。
「いいかい?これはね…」
Freddieは、人差し指を立てて、まるで先生にでもなったかの様に天を指さしながら言った。
「これは、日本の古くから夏などに着る服、”浴衣”って言うんだよ」
「ゆ…?」
Johnが、聞き取れなかったらしく、上手く言えなかった。
「"YU""KA"TA"」
それに対し、Freddieが、ゆっくりと聞き取りやすい様に、はっきりと発音をした。
「浴衣か…」
Johnが又、プレゼントの物…浴衣をマジマジと見つめた。
Freddieが持ってきた浴衣は、黒地に紫や灰色、水色の大きな花が描かれていた。
ちなみに、帯は、赤だ。
「有り難う、Freddie」
Johnは、Freddieに礼を言った。
「でも…。浴衣をもらっても、僕じゃ着方が分からない…」
すると、Freddieは、満面の笑みを浮かべ、
「そう思ってね、着付けを出来るヘアメイクさんを呼んだんだ」
「えっ!」
Johnは、驚いた。
「ちょっと待っててね…」
そう言うとFreddieは、玄関へと歩いて行き、ドアを開けた。
そして、
「良いよ、中へ入って」
と、Johnが借りた部屋なのに、勝手に許可をした、Freddie。
「はい」
返事をする声が、微かに、Johnの耳に届いた。
そして、部屋に入って来たのは、黒い髪、黒い瞳で長身のかっこいい男性だった。
肩に、大きなショルダーバックをしょっている。
それを見て、ソファーに座っていたJohnは、慌てて立ち上がった。
「 John。こちらが、ヘアメイクの山本 聖さん」
Freddieが、自己紹介をする。
すると、ヘアメイクの山本は、
「初めまして」
と言って、Johnへと手を差し出した。
「初めまして、宜しくね」
Johnは、差し出された手を握り握手をすると、そう挨拶した。
「じゃ、早速やってもらおうじゃないか!」
ぱんっ!と手を一度叩いたFreddie。
その言葉にJohnは驚いた。
「本気かい?」
Johnが尋ねる。
すると、Freddieは、
「もちろんだよ。その為に山本さんを呼んだんだから」
と、答えた。そして、Freddieは、山本の肩に手を添えると、
「宜しく頼むよ」
と、言って、部屋を後にした。

「そろそろ出来たかな〜?」
Freddieは、頃合いを見計らってJohnの部屋を再び訪れた。
ちょうどその時、山本が、バックの中へ商売道具を詰めている所だった。
そして、Johnは?と言うと、玄関に設置されている姿見で、後ろを見たり、身体の角度を変えたりして、
興味深そうに鏡を見ていた。
「うん、着替えたよ」
Johnが、視線は、鏡のまま、Freddieに言った。
「おおっ似合うじゃないか!」
鏡の中にFreddieが、加わる。
…Johnは、今回その伸ばした髪を頭の上の方で、お団子にしていた。
普段あまり見る事のない首筋が見えて、ドキッとした、Freddie。
『い、色っぽい…』
と、Johnの首筋の他に浴衣姿も加わって思わず、ごくんとつばを飲んだ。
「それでは、僕はこれで…」
そう言って、山本は、FreddieとJohnの後ろを通って、部屋を出ていこうとした。
「ありがとう」
Freddieがお礼を言った。
「こんなに素敵に着付けてくれて嬉しいよ。ありがとうね」
Johnも同じく礼を言った。
「Johnさん。お似合いですよ」
山本は、そう言って、にこっと微笑んだ。そして、
「じゃ、失礼します」
と告げて、部屋を出て行った。
ごくんっ。
Freddieは、つばを再び飲んだ。
『こんなに色っぽいJohnと二人きり…』
Freddieの鼓動が早くなった。
そんな事も知らずに、Johnは、浴衣姿の自分を鏡に映して、あれこれとポーズを作っていた。
「じょ、John…」
Freddieは、思わず、後ろからそんなJohnを抱きしめた。
「ひぃやっ!」
Johnは、驚いて、言葉にならない声を上げた。
「な、なんだい、Freddie…。いきなり…」
Johnが、後ろから回されたFreddieの腕を外そうとしながら言う。
「色っぽいよ、John…」
しかし、Freddieは、腕を放そうとはしなかった。
「ちょっ!あ、あの〜その〜…。Freddie、お願いだから放して…」
Johnが、遠慮がちに言う。
それは、Johnがオーディションで最後にQueenへメンバー入りした事もあっての事だった。
「嫌だね」
しかし、Freddieは、それを拒んだ。
「浴衣着て、色っぽいJohnが悪いんだ。諦めて」
「諦めるって、一体…。ちょっ、待った!そこは…ストップ!ストップ!」
Johnが、Freddieの腕の中で暴れた。
しかし、Freddieは、攻撃を止めようとはしない。
なので、Johnは、最後の手段。
Freddieの足を下駄で思いっきり踏んだ。
「イテっ!」
Freddieが、思わず悲鳴を上げて、Johnを放した。
それを良い事に、Johnが、玄関の鍵を開けると、廊下へと出て逃げた。
すると…。
「あっ!John。これから、Queenのメンバーで、飲みにいか…ない…か…?」
偶然にも、Queenのメンバーの二人…。
RogerとBrian が、Johnの部屋を訪れた。
だが、Johnの乱れた格好を見ると、あんぐりと口を開かせた。
Johnが着た浴衣は、上は、大きく開け、下もパンツが見える位乱れていた。
お団子ヘアにした髪も、乱れている。
「ど、どうしたんだ?John。服が乱れてるぞ」
RogerがJohnに聞いた。
「こ、これは、その…」
Johnが、ささっと浴衣の乱れを直そうとする。
…と。
「John、俺が悪かった。機嫌直してくれよ」
と、Johnの部屋から、Freddieが足を引きづりながら、出てきた。
「ふ、Freddie?」
RogerとBrian は、交互にFreddieとJohnを見た。
「二人って、そう言う関係だったのかい?」
Brian が、ぽかんとしながら、言った。
「ち、違う!」
すぐさま、Johnは、そう答えたのだが…。
「実はそうなんだよ、なあ、ダーリン」
と言うFreddieの声に、Johnの声は、かき消されてしまった。
「ちょっと、痴話げんかでね。醜い所を見られてしまったな。ねえ、ダーリン♪」
そう言って、Freddieは、Johnの肩を抱き寄せた。

プルプルプル…。
すると、Johnの身体が震えた。
Johnが、うつむく。
「どうしたんだい?ダーリン」
Freddieが、尋ねた。
「…がうのに…」
ジョンが呟いた。
「えっ?何だい?」
Brian が、尋ねる。
「ふ…のば…」
Johnが又呟いた。
よくよく見てみると、Johnは、両手を強く握って拳を作っていた。
「はっきり言ってくれないと、分からないぜ?一体なんだ?」
Rogerが聞いた。…と、Johnが、
「違うのに!Freddieの馬鹿っ!!」
ぺちん☆
Freddieの頬を叩くと、泣きながら、自室へと戻ってしまった。
「…Freddie…」
後に残された三人に気まずい雰囲気が流れた。
「こんな時にそのジョークはマズいと思うよ」
Brian が、Freddieをたしなめる。
「Johnが、可哀想だな…」
Rogerも、その金髪に染めた髪をぽりぽりと掻きながら言う。
RogerとBrian の視線が、Freddieを攻めた。
「な、なんだい。二人共…。僕とJohnは、痴話げんかをしただけだって…。はははっ…」
Freddieの笑い声が、むなしく静かな廊下で響いた。
「ほら、いいから早くJohnに謝りなよ」
Rogerが、ずばっと言った。
「…分かった…」
とうとうFreddieは、自分の非を認め、Johnの部屋の前に立った。
そして、ドアを叩く。
「John!僕が悪かった!出てきてくれよ」
それから、ありとあらゆる詫びの言葉を並べた、Freddie。
それが、何十分も続いた。
ドアを叩く手が痛くなる程、Freddieは、謝った。
…と、やっとJohnがドアを開けた。
もう、涙は、流してなかった。
そのかわり、泣いたため、目が腫れていた。
もうすでに、浴衣は脱いでいて、普段着を着ている、John。
ドアは、ほんの少しだけ開かれた。
「本当に反省した?」
Johnが、目で攻めながら、Freddieに尋ねた。
「ああ、反省したよ。僕が悪かった。だから許してくれないかな?」
「…OK.反省したなら良いよ…」
「ありがとう、John。許してくれるんだね」
そして、Freddieは、何度も「ありがとう」を繰り返した。
「じゃ、仲直りもした事だし、飲みにいこうぜ」
Rogerが言った。
「よしっ!行こう!Johnももちろん来るよね?」
Brian が、尋ねた。
「ああ…」
Johnが、うなづく。
ドアを大きく開けて、廊下に出てきた。
「行こう行こう!雨降って地固まるってやつだな」
Freddieが、嬉しそうに言った…。

…そして、パブに行く道中を、別の話題で盛り上がる三人。
そんな三人の後ろで、Johnは、距離を置きつつ、ついていった。

…こうして、FreddieとJohnの仲は、元通りになった。
しかし、Freddieは、これ以後も、プレゼントと言っては、競泳用の女性の水着を、Johnに渡したりするが…。
この件があってから、Johnは、自分の意見を少しづつ言う様になった…。

(完)

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