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音楽隊『Q』

Written by MMさん

やせたロバが一頭、歩いている。ロバは虚弱体質であまり働けない。
飼い主が別なロバを探してる気配を察した彼は、旅に出ることにした。
そうさ、どうせ肉屋に売られる運命なら、生きてる間は好きなことをやろうじゃないか。
背中に手製のギターをのせ、大きな夢を胸に抱いて、さあ、出発。

ロバは一匹の犬に会った。毛並みはよいが、ちょっと太めだな。
犬は何が不満なのか、地面や他人様の家の壁を、どんどん蹴って暴れていた。
「ね、君、何が面白くないの?」。
ロバが聞いた。こういうことだった。
彼は隣のかわい子ちゃんと仲良くなった。しかしそれがお隣さんの怒りを買った。
うちのかわいいドミニクちゃんに、なんてことを!。
隣の犬は、マルチーズだったそうだ。血統書つきの。
犬は、そのため、家を追い出されそうだった。ロバはある提案をした。
「君、音楽をやる気はないかい?」。
「音楽だって?」。
犬が首を傾げた。そう。ロバの夢は音楽隊を作って都会で一旗あげること。
都会といえばロンドン。ロンドンへ向かう途中で、仲間を募ろうと考えていたのだ。
犬は大いに乗り気だった。彼はとても高い声で歌うことが出来たし、リズム感もよかった。
試しにやってみようか?。
♪ガリレオガリレオガリレオガリレオガリレオ〜〜〜!♪。
ドンドン、パ、ドンドン、パ。
…ね。うまいでしょ?。
ロバは犬をすっかり気に入って、迷わず仲間に迎え入れた。

しばらく歩いていると、今度は猫が現れた。
これまた毛並みがよくて育ちがよさそうな猫だが、何となく面白くなさそうな顔をしていた。
猫の仕事はネズミ捕り。でも彼はネズミ捕りが嫌い。だって汚いんだもん。
下水に入ったら毛が汚れてしまうじゃないの。そんなのいや〜ん。
そうか、日々の生活にそんなに不満があるのなら、ここで思い切って人生変えてみないかい?。
どうせいつか死ぬなら、生きてる間は好きなことをやろうじゃないか。
ロバと犬は、猫に自分たちの仲間に入らないかと誘った。
「何やるの〜?」。
「音楽だよ、ボクがギター、犬が太鼓、ボーカルは今のところボクらでやろうと思ってるけど」。
猫の目がきらりと輝いた。
「ね、あななたち、素敵な声とピアノはいかがかしら?」。
猫はピアノはないけど、歌なら試聴させてあげると言い、ドラム缶の上に乗って歌い、そして踊った。
ロバと犬はすっかり魅了された。そして迷わず猫を仲間に入れた。

ギターとドラムとボーカルが揃った。あとはベース。
しかしこれが難しい。カエル、キリギリス、へび、サル、キジ、桃太郎、鬼、きびだんご…と、
いろいろ会ってみたが、彼らの理想には、ほど遠い。
途方に暮れていると、頭上から変な声が聞こえてきた。

オーデロン!、オーデロン!、オーデロン…!。

見上げると、ある家の屋根の上で一羽の雄鶏が涙目で鳴いている。
黙らせようとして犬が投げた石は、雄鶏に命中し、雄鶏はあっけなく墜落した。
「痛いダニぃ!」。
雄鶏は不満そうに羽をバタバタさせて暴れた。それをなんとかなだめて、ロバは話し掛けた。
「君はあそこで何をしてたんだい?」。
「時を告げていたダニ」。
「その仕事は面白いかい?」。
「面白いダニ、でももう明日から、出来ないダニ」。
「どうして?」。
「明日になったら、ボクはスープのダシになるダニ、あんまり変な声だから、
この家の奥さんがボクをシめるダニ、今日が最後のお勤めダニ」。
そう言うや否や、雄鶏はオーデロン、オーデロンと鳴きながら、さめざめと泣いた。
そうか、それならここで思い切って人生を変えてみようじゃないか。
いつかスープのダシになるなら、生きてる間は好きなことをやろう。
さあ、君も音楽隊に…とロバは言いかけて、はっと言葉を飲み込んだ。

まさか…歌わせてくれと言うんじゃないだろうか…?。

この雄鶏は異常に察しがよかった。すかさずロバの頭の中を読み取って、
先周りしてこう言った。
「え〜、でも楽器なんか弾けないダニぃ」。
つまり歌わせてくれということなのか!。ま、ま、待ってくれ。
ロバは何とか違う方向に雄鶏を誘導しようとした。そしてギターを渡した。
「これを弾いてみなよ」。
雄鶏は首を振った。
「弦が6本もあったら、もうわけわかんないダニぃ」。
「4本だったらいいのかい?」。
雄鶏は、自分の足の指を数えながら、うんうんと頷いた。
「4本なら、少し覚えられるダニ」。
いい加減、べーシストを探すのに疲れていたロバは、この変な声の雄鶏をべーシストに採用することにした。
歌わないことを条件にね。
で、彼らは後悔した。雄鶏は実に厄介な存在だった。
あちこちよそ見ばかりしてすぐ迷子になる。そのたびにロバが探しに行き、背中に乗せて戻ってくる。
そんなことばかりやってるから、ロンドンへの道のりは遠かった。
結局彼らは、森の中で、一泊することにした。ロバがすっかり疲れきってしまったからだ。

地面に寝そべるロバ、犬、猫とは少し離れて、雄鶏は木の上に止まっていた。
すると、向こうのほうに、なにか光るものを見つけた。家の灯りだった。
空腹と疲労ですっかり参っていた一行は、食べ物があることを期待して、その家に向かった。

窓から覗くと、あるわあるわ、テーブルからはみ出てしまいそうなほどのご馳走が。
音楽隊は、口からダラダラよだれを垂らしながら、それを見ていた。
実はその家は、泥棒の隠れ家だった。
もちろん、彼らがそんなことを知る由もない。知ってどうなることでもない。
とにかく腹が減ってる。望みはただ一つ、ご馳走をおすそ分けしてもらうこと。
そして出た結論は、リハーサルを兼ねて、実際に何か演奏してみようということだった。

しかし…一生懸命やっても、中の泥棒は気が付かない。
まだ音楽隊の演奏には、まとまりがなかった。
だんだん虚しくなってきたロバと犬と猫は、しょぼくれて一旦演奏を止めた。
しかし、そんな中で、雄鶏だけがびょんびょん飛びながら、首を前後に振り振りベースを弾いていた。
極限状態によってすっかり我を忘れて、ひたすら弦をはじく雄鶏は、とうとう掟破りをしてしまった。
禁じられていたにもかかわらず、つい歌ってしまったのである。

オーデロン!オーデロン!、オーデロン!

その時だった。泥棒たちが、驚いて家から飛び出して行った。
みな口々に「化け物が現れた!」、「悪いことをしたから、バチが当たったのだ」と叫びながら。
急に目の前が眩しくなった。近くの木の枝に月が落ちて引っかかっていた。
星も散乱して地面にたくさん突き刺さっていたり、月と同じように木にぶらさがっていた。
赤いのやら、青いのやら、黄色いのやら、トゲトゲのやら、まあるいのやら…。
集中した時の雄鶏の声は、こんなにも凄い威力を発揮したのだ。
「これは一種の隠れた才能だ…」。
ロバが思わずつぶやいた。
その晩、雄鶏はヒーローだった。泥棒を退散させ、音楽隊に家と食事をもたらしたからだ。
そして、きれいなお星様も。

この家はなかなか居心地がよく、森の中の一軒屋という立地条件もよかった。
まさに練習場所にふさわしい場所だった。
ここでの合宿によって、彼らは演奏能力を高めていった。雄鶏もどんどんベースの腕を上げていった。
そしてやがて、落ちた星のかけらを資金にした彼らは、豪華なステージを繰り広げ、
後にロンドンだけではなく、世界中を唸らせる音楽隊になった。

ところで、星と一緒に落っこちた月なんだけど、音楽隊はこれには手をつけずに、そっと空に戻したそうだ。
何せ、月はこの世に一つしかないから、これがなくなったら、世の中大騒ぎになるだろう。
『ムーンライトセレナーデ』も出来ないから、グレンミラーだって、こんなに有名にならなかったかもしれない。
よくよく月を見てごらん。あのブツブツ模様は、小枝が刺さって出来た傷跡なんだって。

…その後、雄鶏の歌声を聞いた者は一人もいない。同じ音楽隊のメンバーも例外じゃなかった。
たとえ目の前に、魅惑的な金マイクが差し出されても、猫がマイクを持って、歌えと言わんばかりに擦り寄ってきても、
雄鶏は絶対に声を出さなかった。口はパクパクしていても…ね。

おしまひ。

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