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一寸法師

Written by Yuriさん

昔、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。
二人は大変仲が良かったのですが、子供にめぐまれませんでした。
しかし連日連夜の奮闘のかいあって、しばらく後に
男の子が生まれましたが、大人の指にも満たないほどの大きさでした。
おばあさんは「一寸なのはお前さんの持物だけで十分だわ」と
悪態をつきましたが、一寸法師と名付けられた男の子は
老親の不安をよそに成長していきました。

漆黒の波打つ髪と、大きな瞳の愛くるしい一寸法師は
好奇心が堪え切れなくなって、退屈な山奥暮らしから
逃れる口実を「都で鬼退治をする」という名目で作り、
椀を舟に、箸を櫂にして都へ向けて川を下りました。

どうにかして都に辿り着いた一寸法師は大通りの人並みに
身の危険を感じながらも、大きな屋敷の門をくぐって
無遠慮に中へと進んで行くと、そこの主人とおぼしき貧弱な躯の男が
足元で戯れる一寸法師を見つけました。
物珍しそうに彼を指に乗せると
「人間と同じ躯の作りをしているな」などと雑多なことを
深く考え込んでいると一寸法師が鬼退治のことを告げると不安そうに笑い、
「今私の娘が…」と鬼退治とお姫様の救出を一寸法師に願い出たのです。
(冗談のつもりだったんだけど)と一寸法師は少し戸惑いましたが、
仕方が無いので鬼退治に向かいました。

午睡の時間なのか、鬼の住処から高いびきが響いてきます。
親分とおぼしき虎皮パンツの鬼が巨大な躯を動悸させて眠り込んでいます。
奥の方に、囚われの身のお姫様が辛抱強く座り込んでいました。
お姫様は一寸法師を見つけると、手のひらに乗せて
驚いた様子で彼を見つめておりましたが、一寸法師が
お姫様を助けに来たということを聞いて不信に思いながらも
他にどうする手立ても無いので彼に全てを任せてしまおうと思いました。
それよりお姫様が気になったのは、一寸法師の凛々しい容姿でした。
(婿にもらってもいいかな…でも、あんな小さくては)

一寸法師は鬼がはいている虎皮のパンツを、高いびきをかいて
眠っているうちに蛇皮のものと取り替えてしまいました。
そして、鬼の肩口を針で突くと素早く物陰に隠れました。
鬼は飛び起きて、辺りをきょろきょろと見回すと、自身の異変に気付き、
「誰だ俺の虎皮のパンツを隠したヤツは!?」
周りで同じように眠り惚けていた鬼達に怒鳴り散らすと
不毛な争いを始めました。そのスキをついて、
一寸法師とお姫様は逃げおおせることが出来ました。
お姫様の生還を喜んだ主人は一寸法師に、願いごとの叶う
打ち出の小槌をあげました。彼の願いはただ一つ。

お姫様が打ち出の小槌で一寸法師の頭を軽く叩くと、
みるみるうちに大きくなって立派な男性の体格になりました。
しかしその容姿はランニング姿も逞しい、
口ひげをたくわえた中年男のものでした。
そう、流れた月日の分だけ、一寸法師も歳を取ってしまったのです。
(これは別人じゃ…)
お姫様の背中に汗が一筋流れましたが、既に遅く、
一寸法師の片腕はお姫様の腕を、もう片腕はお姫様の薄い胸板を
強く締め付けて離しません。そして耳元で囁きました。
「………肝心な所も一寸法師じゃなくなったからね………!」

その後二人の行方はようとして知れませんが、
都では、二つ山を越えた僻地に人間を抱えたゴリラ
住んでいるという噂が、まことしやかに流れているそうな。

おしまい。
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