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浦島太郎

Written by Yuriさん

昔、浦島太郎という漁師がおりました。
彼がいつものよう海沿いの道を歩いていると一匹の亀が倒れていました。
「…最近は海が荒れてロクに漁にも出られない。一日の食事にも事欠く。
塩漬けにしたら一月は大丈夫だろうな…しかし、あまりうまそうではない、
脂でギタギタだ…うぷ、胸やけが…ここはやはり、解体して売った方がいいのだろうか…
しかしこんなまずそうな肉、誰が買うものだろうか…いやいや…」
浦島がぶつぶつと思案している間に亀は彼の前に立ちはだかりました。
青い眼をした美丈夫の亀でしたが、若干下半身の肉付きが良すぎるようです。
「さっきから言いたい放題だねアンタ。俺を喰う気かよ?」
「は…聞いていたんだね。そうなんだ、私は困っているんだが」
「困っているのは俺なんだけどさ、海まで連れて行ってくれない?
日焼けしようとしてつい陸に上がって長居しちまったんだ」
浦島太郎はこんな重そうな亀自分に運ぶことが出来るのだろうかと不安になりながらも
30分かけて海岸まで引きずって行きました。
「ぜはーぜはー。ああ苦しい…」
「おっ、この辺でいいよ。サンキュー。そういやアンタ、
メシに困っているんじゃないの?そんな棒みたいな体してるもんなぁ。体力ない訳だよ。
俺がいいとこ連れて行ってやる。背中に乗りな!」

浦島が亀の背中に乗るやいなや、凄まじいスピードで海中に潜っていきます。
100・近くは出ているなかで、酸素不足と水圧に浦島は苦しみましたが
いつしか海底に到着し、呼吸も陸の上のように出来るようになっていました。
目の前には大きくきらびやかな建物があり、門を抜けて
そのまま中へ進むとスパンコールのドレスを纏った乙姫様が出迎えました。
乙姫様は浦島に駆け寄り、抱き着きました。
「竜宮城へようこそ、うふ。楽しんでいってね」
あまりの積極性に浦島は恐怖を覚えつつも、にこやかに応えるのでした。

宴が始まると、たくさんの食事と華やかなショウで迎えられました。
食事の量があまりに多いので隠れて胃薬を飲みながらそれを平らげていきます。
ショウは乙姫様が自ら企画したもので、歌ったり踊ったりして場を盛り上げました。
その最中、浦島は一人のバックミュージシャンに眼がいきました。
頭を垂れて黙々とベースを演奏する健気な姿に浦島は惚れ込んでしまいました。

寝室で眠れず悶々としていると突然屋根裏から乙姫様が飛び込んできました。
「ねぇ、私のダーリンにならない?」
そう言うやいなやドレスを脱ぎ始めたので浦島は慌てて、
「そんな、まだ、私は、あなたとまともに口も聞いていないのに、待って下さい…!」
その夜はなんとか乙姫様を思いとどまらせることが出来ましたが、
明日以降は自分の身がどうなるのかわかりません。浦島は焦りました。

次の日の夜、昨日と同じように宴が終わったのち、浦島は密かに
ベーシストの後をつけました。ベーシストが自室に入るのを確認して部屋に乱入しました。
「あっ、あなたは…い、いけません、乙姫様がお怒りになります…!!」
抵抗するベーシストの体を細長い手足で絡め取ると
そのまま押し倒して想いを遂げたのでした。

翌日、お城の様子がおかしいことに気付いた浦島は物陰に隠れて様子を伺っていました。
すると小さな卵を抱えた昨夜のベーシストが現れたではありませんか。
(なんてこった、一晩で妊娠出産なんて聞いたことがない…!)
乙姫様がベーシストを苦々しく一瞥すると咆哮を上げて家来を城全域に遣わせました。
(ま、まずい、身が危うい)
浦島は慌てて門の外へ飛び出しましたが、そこが水の中だと言うことをすっかり忘れ、
しかも陸はあまりに遠かったので、泳いでいる途中で気を失ってしまいました。

―意識が戻ると、彼は陸に倒れていました。
(うう…眩しい…)身を起こそうとすると、全く体が動きません。
(まるで体に重しを背負っているようだ…)
「あっ、なんだこの亀ー、こんなところに転がってよー、邪魔くせーな」
(亀?)彼を数人の子供が取り囲みました。
「やーい亀!動いてみろ!」子供の一人が木の切れ端で彼を叩きました。
「…ああ…!」彼はわずかに身を震わせました。
「こいつ動いてるぞ、もっと叩いてみろよ」さらに子供が彼を叩きました。

「……………………もっと……………………!」

以後、浦島太郎と「叩くとヨガる亀」の行方は知れずじまいだそうです。
めでたしめでたし。
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