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「アイ・ラブ・にくまん」小話

Written by Yuriさん (Inspired by 「アイ・ラブ・にくまん」)

某国某県某市の中華街の、それはそれは繁盛している肉まんのお店に、
一人の若者がやってきました。緩やかに波打つ黒い御髪と
黒い瞳を持ったエキセントリックな青年で、店の前の人の行列の先にある
白や黒や赤の巨大な半球体に目をやっていました。そのうちに
青年もお腹が空いてきて、その行列に入り込みました。
すると目に止まったのは、肉まんを頬張る、髪がモジャモジャした、
アロハシャツを着た可愛らしい男の子でした。なんだかその男の子は
お客さんとも店員ともわからず、青年は不思議に思いました。

ぷに。
ぷにぷに。
ぷにぷにぷに。

青年が、男の子のふっくらしたほっぺを突くと、
男の子は困った顔をして、顔を赤らめました。
(肉まんより、この男の子が欲しいなあ)
そう思って、青年は肉まんも買わずに男の子を店から連れ出そうとしました。
「お兄さん、その子、うちで預かってんだけれど、君の子かい?
一ヶ月くらい前かなあ、店の前にぼつねんと立っていたんだよ。
警察に届けようかと思ったんだけれど、可哀想でねえ。店に置いてたんだよ」
青年は異国の店員にカタコトの日本語で
「コレイクラ?コレホシイ」と話し掛けました。
「ハハハ、売り物じゃないよ、君の子なのかい?
それとも、君が預かって親元に返してくれるのかい?」
「ナンデモスルカラ、コレホシイ」
話が噛み合わないまま、しかし店員は青年の熱心さに折れて
「持っていきな!」と言いました。
「ドーモ、アリガト、サヨナラ」
こうして、はふはふとまだ肉まんを頬張る男の子は、
異国の地で、これまた異国の青年に連れられていったのでした。

ホテルに着くと青年は、びくびくしている男の子を抱き締めて、
再びそのふっくらしたほっぺを突くのでした。

ぷに。
ぷにぷに。
ぷにぷにぷに。

いい加減、肉まんを食べ終わった男の子は、ほっぺをぷうと膨らませて
青年の腕の中からひょいと離れていきました。どうやら触られたくないようです。
「待てえ!」
青年も子どもに返って、部屋の中を走り回る男の子を捕まえようと
必死に走り回りました。所詮は大人と子ども、男の子はあっという間に
青年の腕の中に絡め取られてしまいました。じたばたする男の子に
そっと口づけすると、魔法でもかけたようにおとなしくなってしまいました。
さらに、ジッと黒い瞳で見つめられて、男の子はぽっと顔を赤らめました。
「どうして、あんな所で肉まんを食べていたの?」
しばらくの沈黙の後、男の子は重い口を開きました。
「あのね、ぼく、まえに、いぎりすからきたのはいいんだけれど、
こんなからだじゃなかったの。おにいさんくらいのとしなんだよ。
でも、あのみせでにくまんをかってたべたら、きをうしなって、
こんなからだになってた。もとにもどるほうほうがわからないんだ。
だから、おにいさん、ぼくをもとにもどして」
子どもながら、しっかりした青年の国の母国語で喋った男の子を
彼は不思議に思いました。これはおかしなことだ。
肉まんを食べて子どもの体になってしまうなんて…。

「いたいた、あの子だ」
「本当だ、いたねえ」
物陰から、そっと二人のやり取りを見つめる白い服をまとった青年二人が
くすくすと笑っていました。背中には羽が生えていて、天使のようでした。
胸元に名札がついていて、一人はもじゃもじゃの髪なので「モジャ」
もう一人は金髪なので「ブロンディ」と名前がついていました。
「神様もケッタイな修行させるよなあ。肉まんに魔法を仕込めなんて」
「それが神様のユーモアというものじゃないかな。それに…」
「ああモジャ、もう良いから観察を続けててくれよ。
俺、元に戻し方がわからねえから、天国に行って神様に聞いてくるさ」
「あの青年、気づくかも知れないよ」
「さあ、わからねえぞ」
そう言ってブロンディはふいと外へ飛び出し、空へ向かって行きました。

長期滞在でこの国へやってきた青年は、男の子との生活を
心底楽しみながらも、早くどうにかして元に戻してあげたい、
そして本来の姿を見てみたいという欲求に駆られていました。

そんなある日、熟睡する男の子の傍らで添い寝する青年の元へ
白い顔を紅潮させてブロンディがやってきました。
「誰だい、君は?」
「しーっ、子どもが起きる。決して怪しい奴じゃねえ」
ブロンディに続いてモジャがそっと顔を出しました。
「僕らは見習い天使です。その男の子…いや、青年にはちょっとした
いたずらを仕掛けたんですが、そろそろ元に戻せと神様からの命令で」
「?」
「言っても信用してくれないと思うけどさ、俺達は修行でやってんだ。
かったるいし、様子は見守らなきゃいけねえし、面倒臭いことこの上ない。
早く元に戻して、天国に戻りたい。この世は厄介なことだらけだからさ。
ある意味、あんたも被害者だねえ。こんな天使のいたずらに引っ掛かって」
青年はしばらく、顔を凍りつかせておりましたが、
『元に戻して本来の姿を見たい』という欲求には勝てませんでした。
「お、お、教えて欲しい、どうやったらこの子は元に戻るんだ」
本題に入ったところで、モジャが顔を真っ赤にして後ろを振り向きました。
ブロンディも、少し困った顔で笑いながら青年に言いました。
「あの子の下着があるだろう?そこの真ん中の部分に‘big’って
書いてあるんだ。そこの実物………を、ボタンみたいに押す訳さ」
青年はモジャ同様に顔を赤らめながら、しかし確実に眠りについている
男の子の下半身の洋服を脱がせにかかりました。そして、眩しい
エメラルド色の下着の真ん中の部分には、確かに‘big’と書かれていました。
青年は目をつぶり、下着に手を差し込むと小さなそれを優しく押しました。

すると…。

いつしか天使の姿は消え、部屋に残ったのは全裸の見知らぬ青年と、
それを呆然と見守る青年だけ。‘big’の名の通り、確かにそれは
立派なものでした。その後、この二人がどうなったのかは
誰にもわかりませんし、誰にもわからないでしょう。

【THE END】

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