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美貌島

Written by Yuriさん・Illustlated by Swanさん

昔、大変な美貌の持ち主にして、大変色好みな王様がおりました。
王様は常に周りには女性をはべらせ、相手を無作為に選びだしては逢瀬を重ね、
その結果生まれた子らの養育費の支払いに追われて国の財政はいつも火の車でした。

ある日、漁から戻った漁師から「気候は常に穏やかで、実のなる木が生い茂り、
たくさんの美女だけが住んでいる」という楽園のような島「美貌島」の存在を聞きました。
当然王様がそのようなおいしい話を聞き逃す訳はありません。
早速三人の臣下を呼び寄せ、調査にあたるよう命じました。
「三日!三日探索して必ず美女を連れて帰ってくるように」
一度火のついた王様の「美貌島」への情熱は止められません。

「全く王は美女と聞けば何にでも飛びつく。これ以上養育費を増やしてどうするのやら」
長身痩躯巻毛の臣下は深い溜め息をついて視線を空にさまよわせ、
「ねぇ、紅茶の時間にしないかぃ?」
異国的容姿の臣下は気だるそうにお茶を求め、
「出航は数日経ってからの方が良いって。嵐が来るらしいよ」
高貴な風情の臣下は海図に目を通し、ぐにゃぐにゃした線を書き込むのでした。

三日後、三人の臣下は荷を積んで港を出た後、予想外の大嵐に見舞われて船は危うく
沈没するところでした。しかし彼らの悪運が強かったのか、方向を見失った船が
漂着したのはラフレシアの香りも芳しい、目的の「美貌島」だったのです。

「あぁ!探索をする力なんて残っていないよ。ここはただの無人島じゃないか!」
長身痩躯巻毛の臣下は浜辺にへたりこんで投げやり気味にか細く叫び、
「すごく綺麗な所だね。あっちには何があるんだろう」
異国的容貌の臣下は好奇心旺盛に島の奥へと駆け出し、
「勝手に行かないで、何があるかわからないんだから」
高貴な風情の臣下は慌てて後を追い、長身痩躯巻毛の臣下は一人取り残されたのでした。

一日目の夕方。二人は島を探索するうち、道に迷ってしまいました。
夜の帳が迫り、身動きが取れなくなってしまったので仕方なく雨のしのげる洞穴で
一夜を明かそうということになりました。食べ物は豊富なので別段困ることもありません。

一日目の夜。眠りこけていた高貴な風情の臣下の体の上に、何かが覆い被さりました。
その何かは「こうやっていないと安心出来ないんだ…」と切な気に囁いて、
彼の体を探索し始め島の探索よりも有用で素晴らしい発見と喜びを見つけた模様です。

二日目の朝。二人の臣下はの怠惰な眠りを貪って陽が高くなった頃に動き出しました。
しかし今の彼らにとって島の探索などどうでも良いことでした。
長身痩躯巻毛の臣下はここで初めて二人が消えたことに気付き、血眼で辺りを探しました。

二日目の夜。食べ物や水には不自由せず、気苦労も全く無いこの島は正に「楽園」でした。
合理的思考の高貴な風情の臣下は「ここに定住してしまおう」と切り出しました。
異国的容貌の臣下は嬉しそうに頷きました。拒否する理由など何も無いのですから。

三日目の朝。約束の期限となりましたが、二人の臣下は一向に見つかりませんでした。
長身痩躯巻毛の臣下は泣く泣く船に乗り込んで島を離れました。
報告を聞いた王様は激怒し、デマを伝えた漁師に刑罰を与えたそうです。

数年後。若く猛っていた頃より落ち着いたものの、相変わらず色好みの王様は
ふと思い出したように臣下に言いました。
「そういえば、派遣したまま帰って来ない臣下がいたな。結局お前は
事実をうやむやにして俺に報告した。今、あの島がどうなっているのか確認して来い」
悩み多き長身痩躯巻毛の臣下は深く溜め息をつき、部下を引き連れ船に乗り込みました。
三日三晩、荒波に揉まれて再び「美貌島」の地を踏んだのでした。

島に上陸した一行が見たのは、そこには無かったはずのたわわに実ったコーヒーの木数百本。
心なしか気温も上昇したような気がしました。太陽はギラギラと輝いています。
「な、なんだこれは…本当にここで間違いないんだろうね?」
「恐らく」
進んで行くと突然が道が開けて、コーヒーのプランテイションが目前に広がっています。
「一体どういうことなんだ…?」

「フローレンス、お茶にしよう!」
「疲れたよぅ、ジョセフィーヌ…☆」

―――――ずどどどどどっっっっっ―――――!!

Paradise!

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」

長身痩躯巻毛の臣下が見たものは、一斉にこちらへ駆け出して来る大量の人波。
それも二つの同じ顔の。良く日に焼けたマッチョな濃厚極まりない口髭の男と、
色白だけれど体は割合しっかりした鼻の大きな短髪の男と。
ようやく長身痩躯巻毛の臣下はそれが誰であるのかに気付きました。
人波に押しつぶされ息絶え絶えの中、絞り出すように呟いたのです。
「ぶ、分裂したのか…アメーバのように…」

………「美貌島」またの名を「男のパラダイス」。濃厚な味のコーヒー豆が実る島。

【THE END】
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