70年代のQueenのプロデューサー

Written by Jun Greenさん

プロデューサーの資質の影響を比べるならば、70年代にプロデューサーを務めたロ イ・トーマス・ベイカーとプロデューサー兼エンジニアを務めたマイク・ストーンの名前を忘れてはならない。両者とも「共同(50%)」の文字の範疇であり、プロデューサーのみでなくエンジニアとしてのクレジットからしてもQueenの音楽の形成において、個の能力の50%程度貢献・影響と思われるが、その50%がQueenの音楽のアプローチの変換を支えているのも見逃せない。トライデント・スタジオ門下生の二人がQueenとの関わりを少し考えてみたいと思います。また、1st.2ndには他にもプロデューサーがクレジットされているが、メンバーのインタビューで当時の状況は「誰がプロデューサーでも良かった」などという状態らしく、その頃の状況が特に1stの音質の原因かと思うとあらためてOPERAやNewsの頃の様な音質で聞きたかった思う事しかり・・・無念

ロイ・トーマス・ベイカー
もともとクラシックのエンジニアとしてのキャリアのスタートで、初期のQueenサウ ンドの「目標」の良き理解者であった事は、あながち素養からしても無縁ではなかったと思う。60年代の「デッカレーベル(名門だね!)」を経験した後、トライデントの立ち上げに参画、マイク・ストーンやQueenと出会い、自ら の70年代のキャリアの布石を ここに見い出す。Queenを筆頭とし、カーズ、フォリナー、ジャーニー等の70年代後 半の「産業ロック前夜」の サウンド形成に貢献。特にバンドの「クセ」を尊重しつつもレコーディングにおい て「オーバーダビング」による 音作りを得手とし、デジタル以前の時代、特にアナログテープのマルチトラック録 音のコントロールに秀でる。 ある意味「真空管」時代の名手。オーバーロードのインジケーターの向こうにある 「テープコンプ」の中から更に 新しいサウンドを求めていた。個人的には「トランジスタラジオ映え」する「ドー ナッツ版時代」のプロデューサー (あのモノラルのスピーカーから流れ出て来る「芯」のあるサウンド)。でもミゾ切 りの浅い「ドーナッツ版時代」 において、個々まで「音圧」を「上げたように」聴かせるアプローチには学ぶ事多 し!!

マイク・ストーン
前出のトライデントの立ち上げでロイ・トーマス・ベイカーと共にQueenに関わった のが縁で、エンジニアひいては プロデューサーのキャリアのスタートを切る。エイジア、ジャーニー等の80年代初 頭の「産業ロック」のサウンド 形成に貢献。バンドのクセを抑えつつも最低限残し、特に「録音時点」から最終ト ラックダウンを前提とした 「残響処理」に優れ、デジタル化する録音環境の中で「楽器の生音・原音」を生か した録音を得手とする。 DSP時代対応型、されど原音忠実主義者。ピークレベルを予測し、その中で最大の余 韻と最高の音質を見い出し、 結果としてのマスタリングを見極めたレコーディングに秀でる。個人的には「カー ステレオ映え」するプロデューサー (ゆったりと広がった音像が余韻と共に聞き手を包み込む)。とりあえず「ウォーク マン」世代の「ステレオ感」の 見本となる様な「音の立体感」にはお世話になりました・・・。

非常に面白い事にこの二人は「ジャーニー」というキーワードでQueenより少し時を 遅らせて交差している。 そして奇しくも両者の全米制覇ひいては世界制覇する作品の音に関わっている事実 。ジャーニーの分析がかなりの 確率でQueenにも共通項を見出せる部分、ちょっと他人が見たQueenになるかもしれ ないが、よく聞けば 「なるほろ、なるほろ、ほろほろ鳥?」の部分もあり「バンド・アレンジよりもレコ ーディング・アプローチ」の 違いを聞いて頂だくのもまた御一興かな・・・My Meran...のピアノの音質はOpen Your Armsに通じる流れが・・・ これはQueenのA DAY とNEWSの聞き比べよりもジャーニーのESCAPE以前・以後を比べ ていただければハッキリ しており(ジャーニーの方が100%プロデュースなので依存度が高かった?)、特にアコ ースティックピアノ、リード ボーカル等の「生音」処理には明確なシングルヒットの論理、後の産業ロックブー ム、ひいてはハードロックバンドの 「バラードヒット」の布石となるアプローチをマイク・ストーンに見い出す事が出 来る。また同時期にはQueenとの 共同作業で得たアプローチをロイ・トーマス・ベイカーは他のアーティストで展開 しており、特にカーズ、フォリナー あたりのサウンドを聴いていると「この音質、似てるなぁー」「あれ、同じコーラ スサウンド?」と思う事多々あり。 現在の「アーティストすべてをコントロールする」プロデューサー時代とは異なり 、「アーティストの個性を形成する」 最後の時代だったのかも知れない・・・安易にマスコミ諸氏は「プロデューサーが 変わって音が変わった」などと 書き立てるが、ならばそこにある「バンド」の音の価値は一体なんなんだ・・・

ロイからマイクへの基本セッティングの変更として・・・

・忍ぶれど 音に出にけり スネアの差   ・別れても 聞こえにけりは 残響 か
・重ねても 重さはいらない コーラスは  ・ギタリスト 自信が有るなら 弾 かぬべし 
・ワンテイク それで充分 ボーカルは   ・ここがキモ 素でも綺麗な 生ピ アノ
・使うけど モロに使うな エフェクトは  ・低音の 輪郭前より 余韻後  

結論
未成熟な1stはともかくとして、2ndからOPERAにかけてのロイ・トーマス・ベイカー の行った仕事で、 A DAYにおいてQueen自身による「応用」が確認できる部分は・・・

・楽器の音を出来るだけOnMicでセットし、コンプレッサーを最大限に聞かせて目一 杯のレベルで録る。特に打楽器系は少々のテープ歪みもO.K.!。音圧の高い音の嵐、しかし一歩外せば単調なる「音質」の壁に・・・手を...の教会風リバーブなどは本来「自然な状況」で生まれるものなのに。

・楽器の音量は最終のTDにて決定するから気にせずにまず弾きまくる。Tie Your...ですな。目一杯の音量ですが、バランスは後で卓のフェーダ−決定、よってppやffの音色変化に乏しい曲、とにかくレスぺとロジャーのタイコが常にff状態で、それを無理矢理「抑えた」音作りが「楽器の色」を奪ってる!!が、逆に「圧縮されたサウンド」のパワーはラジオのモノラルスピーカーから流れた瞬間に他の他の曲と違うインパクトがあった!!

・曲の構成やサイズはテープそのものの「ハサミ入れ」で編集。まさかMillonea...みたいに「ワルツ版Bohemian」ができるとは・・・しかし、この技を最大限に作曲に取り入れているのはずっとフレディが一番だった。

・楽器の持つ残響は切り捨てて録り、TD時に卓上でかけて加工する。全編にわたるコーラスのコンプ・EQのパターンが変わらず、前回までと比べコーラスの「音色変化」に乏しくなっている。やり過ぎ注意!!でも、ここまでやれるバンドは他に無い以上、QueenでQueenを批判しても・・・

単純にこれがA DAYのオーバープロデュースの原因とは言わないが、要因である事実 は音を聞けば一耳瞭然である。 マイク・ストーンがエンジニアとして一貫して支えた70年代の「音質」は維持され ているが、ある意味それ自体 敗因に近い・・・が、結局はバンドの主導により、楽曲の多くが「Bohemian」と同 じ「バラード・オペラ・ ハードロック」の三部構成の亜流であったり、「イントロ・アウトロはコーラス orレスぺダビング固め」である事と 無縁では無いと思う。何よりこのアルバムの反省点がそのまま次作のNEWSに反映さ れており、マイク・ストーンの 立場がエンジニアからプロデューサーへ変化する事によってもたらされた変革が

・録音時にはOnMicよりもOffMicを活用し、録音時に生まれた余韻も一緒に録る。 これはドラムではWe Will...なんかでも顕著にあらわれており「一体どうやっ たら?」とみんなびびったもんでした。他にももピアノや生ギターで感じられますね。前回までのサウンドに比べて「機械臭さ」が消えて「聞きやすく」なった原因 はこのあたりですね。ライブ感の中にもパワーが感じられます。また、ピアノの音質が今までとまったく違っているのに気がつきましたか? 多分70年代のQueenのアルバムで、一番「アコースティック」な響をしています。

・ある程度の構成・アレンジは決めておき、極端な展開変化を避けて、イントロからエンディングまで一貫したグルーブを維持する。作品の小品化、密度が上がり演奏時間が短くなり、次の要因につながる事に・・・逆にフレディの持ち味の「ドラマティック」な展開の曲が全く無くなった・・・マイクはテープ切り張りが嫌いなのか?(JAZZでは再度使用する)

・イントロから歌の出までの時間短縮をはかる。We are... Spend Wings...等ですね・・・ハッキリ言ってラジオ向き! Keep Your...なんか今から聴くとイントロの長い事、長い事・・・

・生楽器は生楽器らしく音量変化に伴う音色変化も録音する。それゆえMy Meran...のフレディのピアノは人気絶大!!! Who needs...でのジョンのナイロン弦ギターの音なんぞはリリカルで、Queenの新しい音キャラの芽生えだ!! (蛇足だが、このアルバムのSleep...とMy Meran...を聴くと、フレディとブラ イアンの「ブルースの解釈の違い」が露骨なので、このあたりも一度突っ込みたいでなぁ・・・) プレイ時のダイナミクスがプロデューサーの「フェーダ−」の支配を受けない。Misfireと比べるといかに「OFF気味」で、「楽器の余韻」が残っているかわかる。

・コーラス&レスぺのオーバーダビングは必要最小限とする。大技はIt's late 、Get down...程度であとはシンプルなもんですね・・・逆にアルバムを通して聞くとSpend Wings...のシンプルなダビングすら輝く! コーラスも極力メロディのサポートで、カウンターをかまさない様に入れる。出番が少ない程「引き立つ」これもアレンジの王道ですね。

・状況によって一発録りのダビング無しも新境地として演る。Sleep...なんかもろ60年代ブルースを意識した雰囲気、この曲の録音中はフレディは何をしていたんだろうか(マーイ、シャンペンターィム!)・・・Who needs...なんかもかなり「一発モノ」ですね。生々しいギターの弦の響が素晴しいですね。Sheer...なんかも歌詞の通りロックバンドとしての「DNA」を忘れない姿勢、常にホットなドラマーであったロジャーの面目躍如!!! ちなみに多くの人々はSheer..を評して「Queen流のパンクへの解答」との見解を述べてるが、私なりの認識を言わせてもらうと「ロジャーの喚起する自己回帰」としての「名演」と言える。特に最後の「ギターフィードバック」の音作り・・・(多分JC系のコーラスをOnにしたギターアンプによるピコピコフィードバック音)「てめーらパンクと同じやり方でもQueenの音が出来るんだぜ!!!!」反論無し! エモーショナルなロジャーならではの「禁じ手」返し!!

なんかこう書いていると、BlackSide&WhiteSideでの組曲の反省が3rdでの小品化に なったのと同じ現象が、Black DAY&White OPERAでのオーバープロデュースがNEWSでのシンプルプロデュースと同じ現象に思えるナァ。 そして一番の主題として、シンプルプロデュースの方向性がブライアンとフレディ の大作指向の楽曲に大きな足枷と なり、結果として元々小品のジョンの評価がされはじめ、追い掛けてのテクノロジ ー(シンセを含むドラムマシン・ シーケンサー等70年代にコーラス・レスぺによって「否定」していたモノ)の導入が 思ってもいないロジャーの才能 開花に繋がるのである。そしてサウンド的にもオーバーダビングが減っただけにリ ズム隊の二人の存在価値は上がり、 楽曲のライブ再現性が高まった時期でもある。またQueenはNEWSの後JAZZで再度ロイ ・トーマス・ベイカーと組むが、 NEWS以上の結果(特に全米で)を残せず新たな方法論の模索の為、新しいプロデュー サーを探す事になるのである。 また、それは後に「スタジオを所有」するといった投資によって「安定した音楽創 造環境」を得るといった 「長期のバンド存続」への姿勢を生み出す要因となる。

特にNEWS以降はライブで「一曲完奏型」が多くなり、それ以前の曲は「断片メドレ ー型」が定着したのは古いファン には少々残念なところである。が、逆にジョン・ロジャーへの依存度と後の全米制 覇のきっかけとなるシングルヒット のからみが、HOTな誤解作を生み、その反省からアメリカを視野から外した「80年代 」のQueenへと変化する中、 新プロデューサーのマックの手腕が新たなQueenサウンドを生み出し、共同作業の喜 びとそこから傍受する利益の 平等性を生み出すのである。ひらたく言うならば「みんな大人になったのね!」てな 事ですかいな・・・


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